夢3a

唐突に開けた空は橙色に焼けて、周囲の暗い壁を照らしている。
広いバルコニーに一人で立つ人影は、間違いなく記憶の中の少女だった。
気配を感じて振り返った彼女は、変わらないあの透明な声で、すこし照れたように語りかける。
「幸せに生きてみようと思ったけれど、あまり上手くいかなかったみたい。でも、後悔はしていないわ。これだけが、わたしのできることだった。そしてなにより、あなたにもう一度会えたんだもの」


背筋を伸ばして立つ彼女の言葉に迷いはない。
沈み行く日の残り火が与える金色の縁取りが、悪魔とまで呼ばれる彼女の姿を、聖女のような荘厳さで包む。
一縷の望みを託して告げた投降の求めに、彼女は懐かしい、あの困ったようなトーンで答えた。
「もしかして、まだ気づいていないかもしれないけれど、あなたはまた間違ってるわ」
追憶に浸りそうになる僕に、彼女は続いて語りかける。


「でも、まったく気づいてないってことはないでしょう? あなたは十分にみんなを泣かしてきたんだから」
ごめんなさい、それはもう、わたしの口からいうことじゃないのね
くすくすと笑う彼女の姿に、期待を絶たれたことを確認せずにはいられない。
同時に、これまでにない彼女への憎しみが生まれてきたことを理解する。
心のどこかで拒絶していた事実が、今、実体をもって心を黒く染めていくのを感じた。
ずっと信じたくなかった。ずっと信じていたのに。