夢2

彼が手に持った鉛筆を軽く振ると、そこから粉のような星がいくつも零れ落ちた。
「本来、魔法はこういうものだ。楽しいが、即物的な役には立たない」
むろん、便利な使い方もあるけれど、と言いながら彼は、空中に光を灯して見せる。
白く、そして暖かい色の輝きが僕らの顔を照らす。


「教会が魔法を禁じた理由は、その力が神の神聖に脅威を与えるからじゃなかった。むしろ、あまりに貧弱だったからだ」


彼は言う。
元来、魔法はちょっとした才能の一つだった。
歌の上手い人、料理の上手な人、物語を書ける人。
それぞれの持つ才能のように、魔法もまた日常の彩り。

けれど、他の才能が教会の文脈で説明される中で、魔法だけが排除されたのはやはり、初期教会もまた、この不思議な力に特殊性を認めていたからなのだろうと。


「世界を救済できるのが神だけだとしたら、神の力によらず幸せをもたらすものが彼らの教義に反してしまうのは明確だし」
言葉を切った彼は、僕の方に目配せをして、少し笑う。
「また明確に神の業に類するにもかかわらず、あまりにも脆弱な効果しかもたないとしたら、そのことこそ神の力への冒涜だと思ったんだろうね」


彼はおもむろに手を伸ばして光をかき消した。
たちまち真っ暗になった部屋も、窓からの月明かりで意外と明るい。
青々とした菜園を知らず見ていた僕にかまわず、彼は続ける。


「中世以降、教会の力が相対的に弱まったことと、その実利的な側面が強調されたことで、魔法は限定的に解禁となる。つまり、業としてではなく、技術として」

戦争の時代だ。自然、魔法は攻撃的なものになる。
雨除けは矢除けへ、ララバイは集団誘眠へ、火口は火球へ。
代わりに、妖精会話や月見祭のような魔法は姿を消した。
占いが許可されなかったことで途絶えた、村々の魔法使いの伝統と運命を同じくして。


けれど結局のところ、魔法陣を組み、呪文を唱えて隕石を召喚するよりも、
投石機を並べた方が早いし確実だったということらしい。
火力系呪文の追求が残したのは、魔法使いたちの挫折と、古い魔法たちの喪失でしかなかった。


そして、と、彼はため息をついて言った。
「フランス精鋭魔法兵団が、イギリスの長弓兵に殲滅された件を知っているかな。あれが軍事力としての魔法の最期だった。魔弾の射程距離に長弓のそれが勝り、矢除けの効力に矢の威力が勝った。ただそれだけのことだけれど。その後のことはきみも見てきた通りだ。実弾を爆発力で相手の体にめり込ませる! 古い時代の師匠たちはこんな恐ろしい技術について考えもしなかったんだろうね。もしそうだとしたら、きっとさっさとこんな空しい競争を諦めてくれてたはずだから」
窓の外を眺め、カボチャの花を一つずつ咲かせながら、しばらく言葉を逡巡し、


「さて、じゃあ、ジャガイモの皮を剥こうか」
これもまた、古い時代にロストした貴重な呪文の一つなんだよ、と彼は笑った。

 世界の二軸

        ↑ポニー
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混沌     |
 ←―――――――――→
        |      秩序
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        |
        |
        ↓ツイン 

 コル・ポニー

ポニー教開祖。コル・ポニーとは「第一のポニー」の意。
天界から六人の聖者とともに地上に遣わされたという。
ポニー教ではコル・ポニーと六聖者を合わせて七始聖と総称する。
第一の聖典である『創世尾記』はコル・ポニーの手によって天界から地上にもたらされたとされている。